アスペルガー症候群③

 しばらくの間、ブログを更新していなかったが、その間に、随分といろいろな方からメールを頂いた。その内訳はと言うと、私の意見に賛同の意を示したり、新しい記事の更新を促したりといった好意的なものが8割強、質問が1割弱で、その他は基本的に誹謗・中傷の類か、もしくは、リアルな知人からのものである。そう言えば、以前メールでやり取りをしていた、某国立大学の元教授(思想上の理由から、名誉教授の称号の授与は辞退)の先生に、こんな質問をした事がある。

「ホームページを開設していると、誹謗・中傷メールが、殺到したりしませんか?」

 事実、その先生が開設しているホームページに併設された電子掲示板では、度々その先生に対する誹謗や中傷が書き込まれていた。だから、当然…と考えたのだが、その先生の答えは、意外なものだった。

「私も、覚悟してはいるのですが、(その先生を批判する人達が)あまり痛痒を感じていないのか、そういったメールを頂いた事は、一度もありません。」

 その当時は、意外に思ったが、確かに誹謗・中傷メールは、思いの他少ない。となると、電子掲示板などで誹謗や中傷に走る、いわゆる”荒らし”の目的は、多くの場合、人目に晒される中で特定個人を貶める事…という事になるのだろうか。ああいった輩 -匿名であるのを良い事に、やりたい放題やらかす者達- が、インターネット上の治安を見出し、情報の質を劣悪なものにしている。やはり、本ウェブサイト記事、”インターネットの匿名性”でも言及している通り、インターネット上への書き込みは原則、実名公開にすべきだと思う。
 前置きは長くなったが、本題に入ろうと思う。冒頭で、私は、”送られて来るメールの1割弱は質問である”と言った。この質問の大半は、アスペルガー症候群関連のものなのだが、これが実に質問の趣意そのものが不明瞭というか、扱いに困るものが多い。その中でも特に、誤解の甚だしいものについて、ここでお答えしておこうと思う。

Q:アスペルガー症候群とは、脳機能障害なのか?

 違います。確かに、”アスペルガー障害”という言葉はありますが、この場合の”障害”は、脳の障害を意味するものではありません。
 アスペルガー症候群の診断基準には、幾つかの項目がありますが、その内の一つが、”当事者が、社会生活を営む上での問題意識を抱えている”というものです。もし、アスペルガー症候群、即ち、”アスペルガー障害”の”障害”が脳機能の障害を指すならば、これはおかしな話です。何故か?もしそうであるならば、社会生活を営む上での問題意識を抱えているか否かに関わらず、アスペルガー脳を持っているという時点で、”アスペルガー障害”と診断されなければならないからです。”アスペルガー障害”の”障害”とは、飽くまで社会生活上の困難か、もしくは、当事者による”生きにくい”実感を言い表したものであり、それが対象とするのは、脳機能ではありません。
 尚、補足として言っておくと、アスペルガー症候群の人間の脳は、知性を司る部位に偏って発達し(当然だが、統計上、知能指数は有意に高い)、その分、社会性を司る部位が犠牲になっています。この傾向は、そもそも男女差によっても生じるものなのですが、アスペルガー症候群の場合、胎児であった際の男性ホルモン(テストステロン)過多により、その傾向がより顕著になったものと考えられています。つまり、極端な男性脳、即ち、理系脳な訳です。また、こういった事は、基本的に、何らかの異常ではなく、遺伝的要因により引き起こされています。
 もし仮に、アスペルガー脳の持ち主が世の中の大多数を占めていたならば、現段階に於いて通常人と見做されている人々に、何らかの診断名が付けられていた事でしょう。また、その場合の医学的見地から見た所見は、以下の様になるはずです。

・知性を司る領域が未発達で、その分、社会性を司る領域が発達している。また、脳そのものは全体として小さい傾向にあり、以上の事実に関連し、知能指数は殆どの場合、平均を下回る。
・高度な抽象的概念が理解できず、そのため、物事を論理的に考える事が困難である。
・情緒的な問題に対し、不自然な程のこだわりを見せる。
・上記事実に関連し、物事の本質的問題と情緒的問題とを混同する。

 これが、アスペルガー基準で見た通常人なのです。 

Q:アスペルガー症候群の人間は、物事を系統的に理解する事が難しいのか?

 いろいろと受けた質問の中で、これが一番不可解でした。何を見て(聞いて)、そんな事を思ったのか?しかしながら、この質問をして来た人物が目にした情報のソースを辿って行き、ようやく判明しました。どうやら、専門的な用語を並べ立て、大人びた話し方をするアスペルガー症候群の子供が、その話ぶりから察せられる程には、系統的には理解していない事がある…という話が湾曲に湾曲を重ねた結果、こういった認識に辿りついた様です。
 確かに、そういった場合もありますが、子供があらゆる物事に対し、系統的な理解を有していないのは普通です。また、これはアスペルガーの子供が、子供らしからぬ系統的な理解力を示す事があるが、中にはその話ぶりから窺える程には理解していない場合もある…という事を言っている訳ですから、これが示すものは、むしろ、アスペルガー症候群の人間の系統的な理解力の高さです。
 馬鹿馬鹿しい程に当たり前の事ですが、系統的に理解する力がなければ、高度専門職には就けません。ですので、こういった主張をする人たちに、私は是非とも聞いてみたいですね。医師や弁護士、学者(特に科学者)や技術者にアスペルガー症候群の人間が多いという事実を、あなたはどう説明するつもりですか?…と。

Q:アスペルガー症候群の人間の知能指数は、検査項目によってバラつきがあるのか?

 通常人との相対的な比較から見て、知性に関連するものが高く、社会性に関連するものが低くなる傾向にあります。但し、通常人でも皆が同じではないのと同じで、アスペルガー症候群の人間にも個体差はあります。時として、この個体差とアスペルガー症候群特有の性質との区別がつかなくなっている人がいますが、この辺りを検証するには、個体ではなく全体の比較が、すなわち、ミクロではなくマクロな視点が必要となります。