アスペルガー症候群①

 「アスペルガー症候群」というものを、ご存知であろうか?おそらくは、この言葉を耳にした事はあるが、具体的にどういったものなのかは知らないという方が、大半なのではなかろうかと思う。この、”アスペルガー症候群”について、少し書いておこうと思う。

 アスペルガー症候群(※01)とは、広汎性発達障害に属する、自閉症スペクトラムの中の一分類である。高度な論理的・抽象的思考力を有する者の比率が高く、学者(特に科学者)やエンジニア(※02)、NASAの職員に多い事でも知られている。また、アルベルト・アインシュタインやアイザック・ニュートン、現代に於いてはビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズといった、歴史に名を残す天才の殆どが、この”アスペルガー症候群”であると言われており、更には、極度に知能の高い者に際立って多く、最も知能の高い部類に属する者は全てアスペルガー症候群であると言う専門家もいる程である。また、ついでに言えば、私自身がその”極度に知能の高いアスペルガー症候群”当事者である。
 アスペルガー症候群を始めとする、自閉症スペクトラムに属する者の多くは、幼少から少年期にかけて頭囲が大きく、また生涯に渡り、脳そのものも重さや体積が大きい傾向にある。幼少の頃のアインシュタインは頭が大きく、また同じく幼少の頃のニュートンは、その頭の重さから、なかなか首が据わらなかった事は有名であるが、かく言う私も実はそうで、幼少期は頭の重さから首が据わらず、また小学五年生の頃には、一番大きな通学帽でも小さ過ぎ、仕方なく後ろを切って使っていた。また、自閉症スペクトラムに属する者の脳は、通常人と比べ発達に偏りが見られる(※03)。扁桃体の細胞が過度に詰まっており、通常人と働きが異なる他、SPECT(微量の放射線を使った、人体内部を視覚化する装置)で見ると、内側前頭前野、眼窩前頭野、前部、及び後部帯状回、側頭・頭頂接合部、上側頭回、下前頭回、梨状頭葉領域が未発達である。脳全体の容量が大きく、部分的に未発達であるという事実は、それ以外の部分が過度に発達しているという事を意味している。また、先に挙げた脳の部位は全て、人の感情を認識したり、推測したりといった所謂”社会性”に関わる部位であるから、これは社会性を犠牲にし、知性を司る部位を異常発達させているものと考えられる。
 何故、この様な事が起こるのか?…理由は定かではないが、現在、最も有力視されているのは”超男性(理系)脳説”である。これは、人間は受精した段階では全員女性であり、その後、胎内でテストステロンという男性ホルモンを多く浴びれば男性、あまり浴びなければ女性といった具合に分かれるのだが、そのテストステロンを浴び過ぎる事により、この様な事が生じる…という説である。その根拠としては、

・自閉症スペクトラムに属する者は、男性が圧倒的に多い。
・自閉的スペクトラムに属する女性には、男性的な身体的特徴(骨格が骨ばっている、毛深い等)が色濃く見られる。
・元来が男性は女性に比べ、全体重に占める脳の割合が大きく、自閉症スペクトラムに属する者に於いては、この傾向が更に顕著である。
・定型発達(通常人)であっても、女性よりも男性の方が、上に挙げた社会性を司る領域の脳全体に占める割合が小さい。つまり、自閉症スペクトラムに属するのは、通常人にも見られる脳の男性的特徴が、より顕著な者である…という事が言える。
・テストステロンを多く浴びる事により、薬指が人差し指に比べて長くなるのだが、自閉的スペクトラムに属する者は、この傾向が顕著である。

などが挙げられる。

—追記—————————————————
 ハンス・アスペルガー自身、アスペルガー症候群について、「男性的知性の極限形態ではないか」と語っている。また、アスペルガー症候群の殆どが男児であり、その父親の大部分は知的職業、或いは高い社会的地位に就いている事、また一族そのものが知識人や芸術家、学者の系譜である事も少なくなかった事から、伴性遺伝との関連性にも着目している
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 社会性を犠牲にして得られる特徴、即ち、自閉的認知行動特性(自閉的傾向)を一言で説明するならば、定型発達の人間との間に於ける、感覚の共有部分が少ないという事になるだろう。つまり、普通の人間は生まれ育った環境の影響を受けながら、多くの人々との間で共有された感覚を育んで行くが、自閉的スペクトラムに属する者は、それらの多くが内部で醸成される(※04)為、非常に独自性の強いものとなる。
 この特性は必然的に、強い個性の持ち主、即ち、極度の変わり者を生み出す事になる(※05)。ただしこれは、高知能者である場合とそうでない場合に於いて、現れ方がやや異なる。と言うのも、両者共に独自性の強さという点では相違ないが、高知能者の場合、通常人の認知特性に対する洞察が鋭く、どういった振る舞いに対し、通常人がどう考えるのか、或いは、どう反応するのかという事が大体に於いて分かっている為、自分に対する印象をコントロールする事が可能だからである。しかしこれも、洞察力が生かせない場合、即ち、未経験であるか、若しくは経験が極めて浅い事柄については分からないから、自身に対する印象のコントロールが儘ならず、結果として独自性の強い側面が現れる事になる。必然的に、高知能なアスペルガー症候群の場合、経験の多い年配者よりも経験の浅い若輩者の方が、自閉的特性の目立つケースが多くなるのだが、天才達の風変わりなエピソードが幼少期に集中して現れ易いのも、恐らくはこの為であろうと思われる。

 現在、天才にアスペルガー症候群が多いという事実から、それが半ばブランド化の様相を見せている。事実、近年に於いては、アスペルガー症候群の診断を受けたくて精神科を受診する者が後を絶たず、またアメリカ等では、自分の子供がアスペルガー症候群であると診断されて喜ぶ親も多いそうである。アスペルガー症候群である可能性が考えられる方については、是非とも専門医の診断を受ける事をお勧めする。マイノリティであるが故の苦労は変わらないが、自分という特殊な人間に対する理解を深める事は、大いに意味があると思う。

※01: 小児科医のハンス・アスペルガーに因んでいる。
※02: 特にコンピュータに才を発揮する者が多く、その事から別名”シリコンバレー症候群”とも呼ばれている。
※03: 自閉症スペクトラムが”発達障害”に属するのは、この為である。
※04:”自閉”と名付けられているのは、この為である。また、この種の誤解が非常に多いが、自閉的傾向云々と消極的か否かという事は、全くの別問題である。
※05: この辺りは、天才に変わり者が多いという事実と符合する。