塾の教書・追記

 本ウェブサイト記事、”塾の教書”を公開してからというもの、ずいぶんとたくさんのメールを頂いた。今回は、立場の違う様々な方々に頂いた質問の中から、特に多かったものを一つずつ選び出し、答えて行きたいと思う。尚、塾に関連する記事は、これを以て最後とする。その旨、ご了承いただきたい。

【塾の運営者からの質問】

Q:

 講師としての能力(主に、授業力)に期待し、業界経験のない人間を採用する場合、どういった点に注意すれば良いのか?

A:

 本ウェブサイト記事、”塾の教書”でも少し書きましたが、講師としての能力は、初期のスキルだけを見ても、将来を予測するのは困難です。ただ、私が業界未経験の段階から研修を担当した講師で、後に目まぐるしい成長を遂げた人たちには、以下の共通点があります。

① 知能が高い。
② 初期の段階に於ける授業が、極端に下手。
③ 説明に、指示代名詞(これ・あれ・それ)が多い。
④ 熱意がある。

 ①は、おそらく②の理由になっています。つまり、知能が高いから、通常人とは認知の仕方が違う。ゆえに、通常人むけの説明をするには、通常人以上に準備が必要な訳です。尚、その準備不足ゆえに起こる現象が③ですから、①~③の根本要因は①ですが、当然の事ながら、その逆(②③ ⇨ ①)は言えません。
 ただ、元来が知能が高い訳ですから、問題解決能力も高いのが普通です。ですので、それなりの努力さえすれば、通常人以上の授業スキルを身に付ける事は可能ですが、ここでの反応は、大別して、”自分について来れないのが悪い”と開き直るか、自身の授業スキルを上げるかの2つに別れます。当然、後者でなければ進歩はない訳ですが、そのためには、言うまでもなく④が必要です。
 尚、講師として一流に育つまでの期間ですが、それなりに授業に入ると考えて、概ね5年は見ておいた方が良いでしょう。ただ、(講師経験の通算が)3年を経て尚、あまり進歩が見られない様でしたら、その人には見切りを付けた方が良いかも知れません。

【塾の利用者からの質問】

Q:

 良い(効果の上がりやすい)塾は、どこで見極めれば良いか?

A:

 まず、様々な塾が独自性を出そうと、これでもかとばかりに繰り出されるキャッチーなコピーをよく目にしますが、率直に言って、どこかの塾だけが持っている画期的な方法などといったものは存在しません(そんなのがあれば、他塾もとっくに真似しています)。つまり、塾の良し悪しは、詰まる所、”優れた講師に当たる可能性”の問題でしかないという事です。
 尚、優れた講師に当たる可能性の高い塾に行きたいならば、講師の求人情報を参考にすると良いでしょう。塾というのは、基本的に終身雇用を前提とはしておりません。最初は、どこか条件の悪い塾に就職し、そこで、ある程度のスキルが身に付いたら、より条件の良い塾へ、更にスキルが身に付いたら、今度は更に条件の良い塾へと移籍を繰り返して行くのが普通です(※01)。となると、最も条件の良い塾が、(自分で、塾を開業したりしない限り)最終到達地点となりますから、必然的に条件の良い塾には、力量のある講師が集まりやすい訳です。
 また、これにはもう一つ理由があります。条件の悪い塾というのは、多くの場合、雇う側も求職者を見下しています。つまり、”こんな条件に飛びついて来るのだから、どうせ大した人間じゃないだろう”と、端から色眼鏡で見てしまう訳です。となると、当然、扱いもぞんざいになります。偏差値の高い大学などでは、互いが互いを認めている所がありますから、低レベルないじめは起こりにくいものですが、それとは逆の現象が、条件の悪い塾では起こってしまう訳です。率直に言って、他に幾らでも行く所のある、力のある講師なら、そんな環境にいつまでも甘んじているという事はありません。ですので、その意味でも、条件の悪い塾には、実力のある講師は定着しにくいという訳です。
 ただし、条件の良い塾とは言っても、学費のあまりにも安い塾は避けた方が良いでしょう。と言うのも、塾の経費の大半は人件費と箱(物件)代ですが、箱代は削る事が出来ませんから、学費の安い塾というのは、人件費が削られています。しかし、条件が良くて、学費の安い塾もあるじゃないかと思う人もいるかも知れません。ですが、こういった塾というのは、ほとんど例外なく過剰なサーヴィス残業を従業員に強いる事により、人件費を浮かせています。つまり、表面上の体裁は取り繕っていても、実質的な条件は劣悪そのものですから(※02)、やはり優秀な講師は定着しづらい訳です。

※01:予備校の講師の方が、この傾向は顕著です。
※02:元来が、三次産業はブラック企業が多いですが、塾業界は他業種の比ではありません。気になる塾がありましたら、ネットで一度、”◯◯塾 ブラック”などといったワードで調べてみる事をお勧めします。

【塾講師の志望者からの質問】

Q:

 塾講師をする事により、得られる(スキル上の)メリットは何か?

A:

 よく、”潰しが効かない”といった意見を目にしますが、それは、大半の仕業種について言える事でしょう。むしろ、ほとんどの仕事が、その会社でしか通用しないものである事を考えると、同業他社への移籍が容易な分、転職はしやすいと言えます。
 ただ、私はある程度の信頼が得られる年齢になってからは、この仕事で培ったプレゼンテーション能力を他業種にも活かす道を模索した方が良いと考えています。何らかの指導的立場に立った時、プレゼンテーション能力は不可欠です。逆を言えば、プレゼンテーション能力は指導的な立場に立つ様々な仕事に活かせる訳ですから、これは相当に可能性が広がると考えて良いのではないでしょうか。事実、私は塾や予備校、大学などで(講師として)培ったプレゼンテーション能力を大いに発揮し、他業種に役立てています。
 ”塾の講師は、潰しが効かない”と言っている人たちは、どこかの会社で勤め人になる事ばかりを考えてしまっているのではないでしょうか。それは、非常にもったいない話だと、私は思います。